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2015-03-09 Mon 16:39
幻水2  同盟軍にて

〈ルック テッド〉

□□□ 再会 □□□




「……え?」
 ルックは眉を寄せた。
 同盟軍居城を中心とした広範囲を覆う、同盟軍に在籍する魔法使い総勢で仕掛けた結界に綻びがないか、見回りをしている途中だった。
 結界といっても、戦争により人の憎悪と悲しみで満たされ淀んだ大気を浄化するために敷いた魔方陣というだけで、攻撃防御のような何かをはねつけるものでも、陣が損なわれて術者に手痛い反動があるというものでもない。
 けれど効果の達成にはある程度の継続が必要であり、魔法使いたちはその確認のために、交代で見回りを行っていた。

 本来、魔法使いは人の争いに、その政(まつりごと)に関与することはあまりない。
 なぜなら彼らが主に相対するものは人知を超えた事象や存在、または人語を語らぬ動植物であり、彼らの思想はそれらとの共存、そして調和を尊ぶところに重きがある。
 それがなぜ今回は協力しているのかというと、戦争という大きな流れが与える影響が人だけに留まらないからだ。
 憎悪と悲しみの一方だけに傾いた世界は、彼らの言うところで正しい世界の在り方ではない。
 そして今、ルックは生じた異変に、空中で飛行を止めた。
 彼が視線を向けた、はるか先に見えるのは都市同盟軍が居を構える城がある。

 真の風の紋章を持つルックは、そこに風が流れる限り、本人が望む望まぬに係わらず、世の異変を察知することができるのだ。
 異変。
 それはルックに馴染みある気配を伝えるものだったが、馴染みがあるだけに不吉な予感が頭をもたげる。
 感じる気配はトランの英雄が持つ、ソウルイーターのものだ。
 解放戦争の頃に感じていたような、不安定で荒々しいものではないが、これまで全く感じなかったものが急に浮かべば、どうしたって気になるというものだ。

 ルックは身に感じる魔方陣のゆるやかな胎動と、それを天秤にかける。
 大切な務めだが、あくまで確認。
 古木や岩など元からそこにあるものを呪具に見立てているだけに、そう簡単にどうにかなっていることはない。

 勤労の教えに背くことに罪悪感を抱く。
 はるか下に見える、草を食む獣の親子が心を重くする。あれらを守るための行いなのだ。
 ルックの心に呼応して周囲の風が少し乱れ始める。
 それに気付いたルックは、すぐさま思考を切り替えるために、目を閉じた。
 心を静める努力が表情を消す。
 彼はくるりと身を翻し、先ほどよりも早い速度で、異変を感じた先へ向かった。

 一方、都市同盟軍の居城の屋根の上では。
「…あの馬鹿」
 胡坐をかいた、枯れ草色の髪の少年が呟いた。
 見つめる先には、遠く旅の行商に扮したトランの英雄率いる小部隊がいる。
 一台の荷馬車を中心に置いた、十数名ほどの小部隊は城門を抜けて、街道をゆっくりと進んでいた。

 少年はふと視線を上げると、穏やかに目を細めた。そのはるか先の上空には、こちらに近づいてくるひとつの影。
 それは人だった。
 そしてそれは、少年がさっきまで眺めていた小隊の上でぴたりと止まる。
 すると小隊のひとりが、そちらを見上げた。

「おーおー。睨み合っちゃってまあ。あいつら仲悪かったっけ?」
 様子を見ていた少年は、やわらかな響きを乗せて、感想を漏らす。
 小隊の人物が空を見上げていたのは、ほんのわずかの間だった。
 それとは逆に空の者は、何か気になることがあるのか、去り行く小隊にずっと頭を向けている。

「お前が悩むことはないんだよ」
 そんな少年の言葉が聞こえたわけではないだろうが、やがてそれは諦めたように、やってきたときと比べてずいぶんとスピードを落とし、城へ向けて移動を開始した。

 そして出会いは必然に。
「まさか…」
 ルックは我が目を疑った。
 その気配に気付いたわけではない。呼び止められたわけでもない。
 向かう先に、たまたまその存在があり、そして相手がこちらを見ていた。だから気付けた。

 ルックの視線の先には、枯れ草色の少年。
 短くやわらかなくせ毛が風に踊る。当時のままの青い衣、その姿。
 屋根の上の少年は不安定ながら立ち上がり、改めて琥珀の瞳をルックに向けた。

 まさかそんな。彼は死んだはずだ。
 ソウルイーターに全てを捧げ消え去ったのを、ルックはその目で見たのだ。
 ルックは空中で留まり、小隊の方向へ視線をやって、またこちらに戻す。
 ソウルイーターの前の継承者の姿をした、何か。
 視認して初めて感じることが出来た、人ならざる者の気配に戦慄が走る。

 ソウルイーター。正しくは生と死を司る紋章という。
 宿主の周囲の人間に死をもたらすために、片方の作用だけに目を奪われがちだが、生き人の中にあるから死を意味するものになるだけで、真実はどちらの作用も同等に行われている。
 そして人が死んだから、人が生まれるというものでもない。
 死するもの、生まれるものが、同じ存在とは限らないのだ。

 ルックは魔法の杖を握りこんだ。感じる気配は魔物のそれだ。
 つまりこれはソウルイーターが生み出したなにか。
「久しぶりだな、ルック」
 それが紡いだ言葉と響きがあまりにも本人そのもので、ルックは鳥肌を立てた。

「大きくなったなぁ。おれより背高いんじゃないか?」
「黙れ」
 上機嫌なそれに、ルックは魔法の杖を向ける。
 いくつもの小さな魔方陣が、『それ』を囲むように現れる。
 風が鋭い音を立てて、周囲を巡る。

「急にロウの気配が浮かんだかと思えば…。その姿はテッドの──ソウルイーターの前の器のものだ。正体を現せ」
 ルックの胸に湧き上がったのは怒りだ。
 魔法使いたるもの、異形のものに対して理解は深いが、その性質が嘘を騙り、死者の肉を纏う闇の者であれば話は別だ。
 なにより模(かたど)ったその姿が、ルックの知己であれば、なおのこと。

 紋章が何を生み出すのかは、宿主の意思とは離れたところにある。
 全ては27の真の紋章の調和の元に、生まれるべくして、そこに生まれる。
 つまりこれの出現は、盾の紋章の聖なる力と、城内を包む魔法使いたちの対魔の結界が災いしたのだ。
 見誤った。その一言に尽きた。
 ロウに戻らせて責任を取らせてやりたいところだが、あの見た目では事態が悪化するのは明白だ。

 『それ』は困ったように眉を下げる。
「正体ったって…今、お前が言ったじゃないか」
「黙れと言ったんだ。蘇(よみがえ)りの相場は魔物だ」
「あー、まあ…確かに今のおれは人じゃない。気配も魔の者に近いだろうよ。でもルック、もっとよくおれを見てみ? おれが何なのか。お前なら分かるはずだ」
 臨戦態勢のルックに対し、それはどこまでも自然体だ。

「残念だったね。僕を惑わそうとしても無駄だよ」
 他の魔法使いたちは、気付いてもいないだろう。感じる力量は小物以下。
 だが本当に小物なら、城の結界内では存在すらできないはずだ。
「違うっつーの。お前騙して、おれにどんな得があるっていうんだ。はい、ばんざーい。怪しいものは何も持ってないだろ? 別に、誰かが作った土人形でもないし」

 同じ声。同じ空気。
「黙れ」
 ───かつてこの世の全てを生み出した、根源の闇。
「なんだ、臆病なのはそのままか? 知ること、考えることは恐ろしいものじゃない。なあ、ルック。よく見ろよ。おれが何なのか。この体がなんで構成されているか。お前なら─」
「黙れ!」
 一陣の風が、それの頬を走った。一筋、血が滲む。琥珀の瞳が見開く。
 ───彼はもう死んだのだ。

「ロウの記憶を写したのかな? それともあの紋章の欠片を取り込んだのか。なんにしても、うまく化けたもんだね。──とても不快だよ」
 それの周囲に浮ぶ魔方陣が、一層はっきりと呪文を浮かせる。 
 それは魔方陣をちらりとみやり、
「わかった。それがお前の答えなら、おれは黙って受け止める」
 両手をあげたまま、目を閉じた。

 その行為が、ルックを僅かに迷わせた。
 無防備を晒すそれを信じたわけではないが、目を凝らす。深く探る。そして。
「──いや、だけど…」
 ルックに混乱が生まれた。

 確かに人ではない。けれど魔の者でもない。
 それどころか、やはり成り立ちは更に深い闇に属している。だからこそ生じる疑問。
 欠片ではない。その先に見えてくる答え。
 ルックの迷いを現すように、杖の先に込めた魔力が、たわんだ。そして。

「なんなら首をはねたっていいぞ。だって、おれもう死んでるし?」
 それは茶目っ気たっぷりに、片目を開き、両手を横に広げた。
「──おいで。おれの小さな風の子」
 迷いは、再開の喜びに変わった。

「テッド!」
「ははは! やっぱりだ! おれを超えてる! 大きくなったなぁ!」
 ルックはテッドへ向けて飛び込むように、再会の抱擁を交わした。
 抱きつかれたテッドは当然よろめき、転びそうになるが、ルックが踏ん張り、うまく支える。
 ルックは衝動のままに腕を回し、テッドはその頭を何度も撫でた。
「ごめん! だけどどうして!? あの時、君は僕の目の前で…!」
「あぁ、死んだ! だから今は正真正銘の死神だ!」

 抱きつくルックに無理な体勢を強いられ、それでもテッドはどうにか支えようとするがやはり屋根の上。
 足場は悪く、そして狭い。
 テッドは足を滑らせ、ルック共々、見事に屋根を転がった。

 ふたりは慌てて体を支えようとするも、屋根の傾斜と折り重なる体勢が、見事に望みの邪魔をした。
 屋根の裾まで転がり落ちて、絶妙な姿勢でやっと身を留めることに成功する。
 頭を下方に、腰から上がぶらさがった姿勢のテッドは、眼下の景色にどっと冷や汗をかいた。
「──助かった」
 恐々と息をついたそれは心からの言葉だろうが、ルックは呆れた。だって。

「死人だろ?」
「あ──。ルックだって空飛べるだろーが」
「そういえばそうだね」
 どんな高所を転がろうと、お互いに関係なかった。

 言われて初めて行動に移すことを思いついたルックによって、ふたりは一段下の屋根にふわりと降り立った。
 そして顔を見合すと、どちらともなく笑いが込み上げるのだった。ひとしきり笑って、
「説明がほしい」
 これはルックだ。

 テッドは右の手袋を脱いだ。そこにあるものは──。
「ソウルイーター…! でもじゃあロウは…」
「向こうも本物だしこれも本物。ソウルイーターは対で宿すものなのさ」
「でもテッドはいつもひとりだったじゃないか」
「いたよ。ただ、人前に出る人じゃなかった。それよりもお前だ、ルック。体は平気か?」

 まあ、座れよ、とテッドは率先して胡坐をかき、座り込んだルックの胸に右手を翳した。
 その右手は微弱な魔力を発している。
 魔力の流れを見るための、医者でいうところの触診というやつだ。
 ルックの心臓には、真の風の紋章が絡みついていた。

「……意味ないよ」
「あるさ。天命が終わらないうちは、歯ぁ食いしばってでも生きろ。──ちょっと我慢な」
「──っ!」
 テッドは触れるだけだった魔力を流し込んだ。闇の力。

 反射的にルックはテッドの腕を掴んだ。だが耐える。
 胸から病が広がるような感覚に肌が粟立ち、段々と眠りに落ちる様な心地よい気怠さに変わる。
 そう。最初の恐怖を乗り越えるだけでいい。何度も経験したことだ。
 ルックの全身を巡る風の力が濁り、ルックを悩ませる『音』が遠ざかる。
 半身の気配が薄れゆく不安も、流れ来る闇がもたらす鈍重の安堵に沈んだ。

「こら、息止めるな」
 ぺちんと額を叩かれて、ルックは現実に引き戻された。
 蘇る音。匂い。五感。──風が運ぶ『音』と、紋章の『声』がやんだ。
 テッドは手袋をはめる。

「なあ、ルック。この力が何を見せても、どんな『声』を運んできても、お前がそれに心を向けることはないんだ」
 紋章が心臓に絡みついていることが問題じゃない。お前の心が悲鳴を上げるから、体もそれに引きずられるんだ。
「でも聞こえるんだ。しかも段々酷くなる」
 声が。悲鳴が。喜びが。悲しみが。
「テッドには分からないんだよ。心臓に紋章が取りついてるってことが、どういうことか…。どれだけ苦しいか…。そんな簡単なことのように言わないでよ」

「だけど今は聞こえないだろ?」
「そりゃ、だって今はソウルイーターの力が…」
「でもおれは特別なことをしたわけじゃない。なあ、ルック。おれは何度も──お前の顔を見るたびに何度も言ってるぞ。やろうと思えば、自分でできることなんだ。─ロウはできてるぞ?」
「……」
 ルックは俯いた。だってロウには、テッドがすぐ側にいるじゃないか。

 見透かしたように、テッドはぽんとルックの頭を叩く。
「馬鹿、おれは関係ないさ。──あぁ、お前の半分でも、ロウにそんな殊勝な心根があれば、おれもこんな苦労しないのになぁ」
 しみじみと呟いたテッドに、はたとルックは気付いた。そういえば。
「テッド、どうしてこんなところにいるんだい? ロウと離れていて大丈夫なの?」
 対で宿すというのなら。

「急にソウルイーターの気配が浮かんだのは、君が原因なのかい? だとしたらなぜ? ロウと何かあったのかい?」
 ソウルイーター。生ある者には死を意味する。
 ルックの胸を不安が過る。知ったからには、放置していい問題ではない。
 そうだ。なぜ彼はこんなところにいるのだろう? 
 感じたソウルイーターの気配は落ち着いていたが、最近のロウの様子はおかしくはなかったか? 
 噂話にも、ちらほら出ていたはずだ。

 だがテッドは取り合わない。
「ほら。そこだよ、そこ。周りの事なんか考えるな。それを直せっていうんだ」
「テッド! そういう話をしてるんじゃない」
「それとな、この城の結界。魔の存在を禁じた分、人の心に闇が巣食って釣り合いとってるぞ。あいつを中心にした悪循環は、そのせい。結界、見直せよ」
「話を聞いてよ」

「お前がな。ちゃんとおれの話を聞いてたか?」
 ひたりと、琥珀の眼差しがルックを見た。
「人の事を気にしてる余裕なんかないぞ。おれの言ったことをよーく考えろ」
 ルックが力を取り戻すまでに。風が闇を濾しきるまでに。
「…もう、助けてくれないの?」
「馬鹿。どうしてこう、お前たちは…」
 不安を湛えたルックの瞳に、テッドは堪り兼ねて抱きしめる。

「きっと出来るよ。お前ならきっと。─またな」
「あ、待って!」
 テッドはルックの腕の中で、さらりと風に溶けた。




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