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2013-10-20 Sun 13:27
幻水2  同盟軍にて
〈2主 ルック 坊〉


□□□ トランの英雄 □□□



 等間隔に設置された灯りが、暗闇の廊下を転々と続く。
 その中を硬質な靴音を響かせて足早に歩く黒髪の若者。
 彼は、城内を巡回している兵士に声をかけ、軽く話を交わし、そして項垂れた。
 そして兵士に別れを告げると、突き当りの角を曲がったところで、その奥に続く廊下に人影を見つけた。
 相手もこちらに気付いたらしく、近づいてくる。

「ルック、そちはどうだった?」
 若者は近づいてくる少年に問いかけた。問われた亜麻色の髪の少年はため息をつく。
「いなかった。部屋にはまだ戻っていなかったかい?」
 若者は首を振った。疲れも露わに、ため息をつく。
「あのさぁ、本当にルックはあの人がどこへ行ったか分からない? 魔法でぱぱっと調べるなり、紋章の気配を感じるなり、魔法使いってそういうものじゃないの?」

 改めて問われた少年は、少女にも見える整った顔立ちを不機嫌に曇らせた。
「あのね、ゴクウ。彼の紋章の気配を追えないのは僕も同じなんだよ。彼は紋章の気配を隠すのが格段にうまくなってる。昔ならまだしも、今じゃ例え隣に立たれても力の気配は感じ取れない」
 少し悔しさの滲んだ少年の口調。
 紋章の力を操る者としては、思うところがあるのだろう。ゴクウは己の軽い失言を察した。

「ごめん。ルックってなんでもできるイメージがあったから、つい甘えちゃって。じゃあさ、どこか行きそうなところとか予想つかない? マクドールさんとは付き合いが長いんでしょ?」
「別に…知人ってだけで、そんなに親しかったわけじゃないよ」
「それ、お手上げじゃないか」
 けんもほろろな少年に、ゴクウは降参とばかりに天井を見上げた。

 ロウ・マクドールこと、トランの英雄を同盟軍の城に招いて数日が経過する。けれども同盟軍の人間は、彼をあまり歓迎していなかった。

 それも当然、同盟軍とは、トラン共和国が成る前にあった赤月帝国時代から、血で血を拭ってきた仲だ。和平条約を結んだ現在でも、その関係は良好とは言いがたい。
 赤月帝国が内乱に転じた当時、それを好機と侵攻を始めた同盟国側は、その内乱に勝利したバルバロッサ率いる帝国軍に敗退を強いられた。黄金の皇帝とも評されたバルバロッサが皇座に就き、帝国は平和になるかとも思われたが、その執政も長くは続かず、帝国領は再び戦乱の炎に包まれた。

 それに乗じてまたも侵攻を開始した同盟国だが、内乱にかまけて他国からの侵攻を許すほど赤月帝国も甘くはない。また帝国軍だけでなく、それと勢力を二分していたロウ・マクドール率いる解放軍も、国土を荒らす同盟国軍を敵とみなし、度々、討伐対を送り込んだ。両者とも同盟国という共通の敵に対しては、暗黙の了解のもと、時には共闘、時には邪魔をせずに静観を決め込んでいたという具合だ。

 結果として同盟国側は、赤月帝国と解放軍の二大勢力を相手に戦って、引き下がるしかなかった。しかし最後には、解放軍は勝利を得るために、その暗黙の法すらも利用して帝国軍に勝利したのだが、今はそんなことはどうでもいい。
 問題は同盟国側にとって、ロウがつい最近まで戦っていた敵の大将であるということ。そして最悪なことに、ロウは、当時、同盟軍が戦場の第一線で戦っていた赤月帝国側の将、テオ・マクドールの息子だった。

 同盟軍に所属している者の中には、先の戦いで家族や友人等を失った者も多い。『終戦したのだから』という理屈で納得できるほど時は経過していないのだ。未だ癒えぬ悲哀や恐怖、憎悪の矛先を、ロウ・マクドールに向けるのは自然の流れといえよう。

 そんな事情で、ロウ・マクドールは客人として招かれているにも拘らず、表立ってはないものの陰湿な嫌がらせを受けていた。

 しかし現在のトラン共和国の大統領であるレパントはもとより、共和国政府の要職は全て、解放軍でロウの側近だった者たちで固められている。ロウ・マクドールは今でこそ世捨て人のような状態だが、トラン共和国に対する影響力は変わらずに大きかった。

 またマクドールを招いたのが現同盟軍軍主ゴクウ本人ということもあり、腫れ物扱いだが、悪意は表立っていなかったのだ。だが、五日目にして事が起こるのは時間の問題という有様で、というか事件は起こった。

 酔いに任せてロウの頭を堂々と酒瓶で殴った馬鹿者が出たのだ。たまたま一緒に居合わせたビクトールがすぐに仲裁に入ったのと、ロウがさっさとその酒場を立ち去ったおかげでそれ以上の事態は免れたのだが、大事件が起こったことに変わりない。軍主自ら謝罪して来いと、ゴクウは真夜中に軍師に叩き起こされ、こうしてどこへ行ったか分からないトランの英雄を探し回っているわけだ。

「それにしても、君が紋章の気配を感じられないって、信じられないような話だよ。彼は真の紋章を持っているらしいから、歴代の継承者から伝わる、何か特別な方法があるのかもしれないね」
 ゴクウが両手を組んで唸る。 
 なにせ目の前にいる少年は、そんじょそこらの魔法使いとは格が違う。この若さで都市同盟軍の魔法兵団のひとつを任されるほどだ。

 呼吸をするように紋章を扱う彼は、潜在能力だけを見るならこの城にいる誰よりも高いだろう。精霊と話をし、天候すら読むことができる天才少年が、マクドールだけは捜しだせないというのだから不思議な話だ。

「どういう方法か分からないけど、君の言うとおりだろうね。なにせあのソウルイーターだし、地道に足で探すしか方法がない」
 美貌の少年も、長い溜息をついた。疲れているのは同じだ。
「かといって、人海戦術で捜すってわけにもいかないし」
「これ以上、事を大きくしてこじらせるわけにもいかないからね」
 だからこその、問題が起きないよう厳選した少人数による捜索だ。
「ほんと、どこに行ったんだろうね……トランの英雄は」
 ゴクウはその原因となっている少年に思いを馳せた。


一方、渦中のロウ・マクドールはというと。
 険しい顔をしてこつこつと廊下を進んでいる。鋭い視線を四方に走らせながら、苛ただしげに酒で濡れた髪を掻き上げた。見回りの兵士のひとりも出くわすことなく、中庭に出る。

 りんりんと虫の声が響き、冷たい夜風が宥めるように頬を撫でた。そこここに設置されている松明の灯りは頼りない。舞い上がる火の粉は、空に広がる星々の中に消える。
 幾分、気分が落ち着いたのだろうロウは、長いため息をつくと一言。
「ここはどこだろう」
 実は迷っていた。

 ロウは、近くにあった石の長椅子にどかりと座り込んだ。自力で部屋に戻ることは諦め、ここで人を待つためだ。
 酒瓶で殴られた頭がずきずきと痛い。
 あの場にビクトールがいてくれて助かった。彼ならばうまく場を収めてくれる。このあとロウは、同盟側の謝罪を受けなければならないのだが、どうにも素直に部屋へ帰りたくない。

 今日一日は、本当に散々だった。
 分かっていたことなのだが、同盟軍の城は実に居心地が悪い。まあ自分のしてきたことを思えば当然だ。背負った十字架は数知れないのだから。
 しかし頼まれてきているのだから、過去がどうあれ客に対して、押さえが効かずにこの不始末では、上の人間の資質も問われるというものだ。

 荒立てる意味もないので事は収めてやるが、呆れた話であることに変わりない。
 一緒に飲んでいたビクトールの顔が、一瞬にして凍りついたのには笑ってしまったが。

 ロウは右手を握り締めた。
 酒場に赴いた最大の原因がここにある。
 このせいで基本的には売られた喧嘩は買う性質のロウが、毎度おとなしく引き下がっているわけだ。
 なにせ『彼』は、争い事を何よりも嫌う。

「なあ、出てこないか?」
 どこを見るともなく、呟く。最近、日課となっている彼への説得だ。
「今夜は星がきれいだから、一緒に見よう」
 しかし返事はない。
 聞こえてくるのは虫の声と、近くにいたらしい夜鳥の枝を移る羽ばたきだけだった。

 ロウはうんざりとため息をついた。
 まぁ、そばには誰もいないので返事がないのは当たり前だ。
 けれどロウが独り言を呟いているというわけでもないのだ。
 ただ姿が見えないというだけで、呼びかけた相手にはちゃんとロウの声は届いている。ただ、無視されているだけだ。

「今日もそんなふうに閉じ篭っているのか? もう城に着いているんだから、いい加減諦めたらどうなんだ」
 根気強く話しかける。

 ここに来る一週間ほど前、その相手とちょっとした口論になった。
 原因はロウが同盟軍に力を貸すことで、それ以来、その相手は姿を現さなくなったのだ。
 普段は穏やかなのだが、寄る年波にふさわしい気難しさも併せ持っていて、一度、機嫌を損ねてしまうと、手に負えないところがあった。

「確かにおれがここにいれば、墓の数は増えるだろうな。おれだって、それぐらいは分かってる。でも黙って見ているだけじゃ、お前の嫌いな戦争は終らないんだよ。トランはすでに援軍を出していた。ソウルイーターがあるんだ。おれ自身が断ったところで、必ずどこかで繋がる。もとよりおれの立場じゃ、彼の申し出を辞退することはできないんだよ。ただでさえ同盟国とはカレッカのことが─っつ!」
 不意に、バチっと右手に軽い痛みが走る。彼の意思表示だ。

「………」
 ロウは、むっと眉を寄せた。
 彼の戦争嫌いは昔からのことだが、こちらにも譲れない事情というものがある。
 ここまで頑固にしてやられると、腹も立ってくるというものだ。

 今、ロウにとっての最優先事項は、いち早くこの戦いを終らせることにある。
 同盟国の戦乱の炎を、せっかく平和になったトランに持ち込まれては困るのだ。ついでにいえば、ここにくることで都市同盟の内情と動向も知れる打算もあった。
 条約を結んだとはいえ、いつ敵に回るか分からない国の情報は、多いにこしたことはない。

「…いい加減にしろよ」
 ロウは痛む右手をぐっと握り締めた。
 手袋の下に巻いてある封呪布が、少し熱い。
 彼の意思表示に反応したのだ。
 こんなに長い間、彼に会ってないのは、あの戦争以来のことだった。



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