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2013-12-10 Tue 11:50
幻水1  坊の少年時代

〈坊  オリキャラ グレミオ〉

涙の続きです。

★★★★★★★★★★★★★★★


 ──── 馬がいる。

 屋敷の扉を閉めて、まずそれが頭に浮んだ。ここを出ていくんだ。
 真っ直ぐ馬屋へ。走る。

「っと! オディアル様、どうかされ─」
 途中、使用人にぶつかったが構わずに行く。帰るんだ。
 馬屋までひた走り、入り口から一番近い房の柵を外す。黒馬だ。おあつらえに馬具までついてある。オディアルは飛び乗った。
「ヒヒヒーン!」
 振り落とされそうになる。運が悪い。屋敷で一番気性の荒い馬だ。他の馬も騒ぎ出す。

「─── 誰か来てるのかい?」
 戸口で馬番のチャーリーの声。しかし乗り換えている暇はない。
「お前たち、どうした? そんなに騒い───うわぁ!!」
 嫌がるクロガネが前後左右に足を跳ね上げる。馬番も跳ね飛ばしそうな勢いだ。
「ク、クロガ…坊ちゃん何をしてっ! 駄目だ、坊ちゃん、クロガネはテオ様しか乗せないんだよ!」
「ごめん!」
「うわぁ!」
 飛び越えた。

「坊ちゃん! いけねぇ! 何やってんだ!」
 馬番のチャーリーの声。
「駄目だ! 戻れ、クロガネ! 誰か! 誰かー!!」
 背中で怒声。もう遠い。
 中庭をつっきり、正面に回る。
 必死に手綱を掴む。もう止まろうにも止まれない。クロガネが嫌がってわざと乱暴に走り、落馬を狙っているのが分かる。馬はまだ数えるほどしか乗ったことがない。

「クロガネ、お願いだ! 少しの間でいい!」
 馬にしがみつき、太腿を締め、ロウは前を見据えた。
 このまま行っても、門が開いていなければ終わりだ。だがそこに着きかけて、たまたまオディアルの従者が門から出入りしているのを見つけると、速度を落とさずに、
「グレミオ! 門を全開にしろ!」
「え、はい! ただいま!って、坊ちゃん、どこに…」
 主の声に反応したはいいが姿が見えないので、グレミオがあたりを見回す。

「早く開けろ!」
「はい! って、馬? え、うわ!」
 蹄の音が近づいてきたと思えば、黒馬がものすごい勢いでグレミオに向かってくる。暴れ馬かと思ったが、人の足が見えるので、騎乗者はいるようだ。とにかく門を開けると、すぐに違う声が、
「グレミオ! 坊ちゃんをお止めしろ! 坊ちゃんがクロガネに乗っている!」
「え、え? クロガネ?」
 クロガネとはこの屋敷の主であるテオの愛馬だ。気性の荒い馬で、テオと馬番のチャーリー以外には懐かない。しかし思考と判断が間に合わず、結果、

「開けるな! ──この馬鹿が! 坊ちゃん、待って下せぇ!」
 まんまと主を外へ出してしまったまぬけな従者に、チャーリーの怒声が飛ぶ。
 荒馬に乗って走り去る幼い主人と、慌ててそれを馬で追いかけるチャーリーに、グレミオは目を白黒させた。馬の走り去った方向を確認して、とにかく追いかけねばと厩舎へ走り、馬に飛び乗る。しかしそこで、
「何事です。この騒ぎは」
 この事態にはまるで似つかわしくない、泰然とした声がグレミオに届いた。

 ぱらぱらと雨が降ってきた。
 花の盛りが過ぎ、木枯らしが葉を散らす庭園の一角で、騒ぎに集まった使用人たちの中から、傘を差し、黒服を着た背の高い老人が、眼鏡の奥から鋭利な眼差しをグレミオに向ける。
 痩せ過ぎて枯れ木のような印象があるが、白髪頭をきれいに撫で付け、真っ直ぐに伸びた背筋と鋭い眼光が、老いの陰りを感じさせない。このマクドール家において、全使用人を束ね、テオの不在時には屋敷の一切を取り仕切る執事長だ。

 グレミオは、馬の足を止めた。
「ミハエルさん、馬上から失礼します! 坊ちゃんが、オディアル様がクロガネに乗って出て行かれました! 今、チャーリーさんが馬で追っています!」
「そうですか。では彼に任せて、お前は連絡を待ちなさい。グレミオ」
「私はオディアル様の従者です! オディアル様が乗られている馬は気性の荒いクロガネ。早く行って助けて差し上げないと、もし落馬でもしたら…」
「それこそ、馬の扱いが下手なお前に来られても、邪魔なだけでしょう。──さぁ、皆の者も自分の仕事に戻りなさい。オディアル様のいつもの癇癪です。放っておきなさい」

「何を言っているんですか! 今すぐ人を数名出してお捜しすべきです!」
「ここが気に入らずに出て行ったのです。どうなろうと、こちらが預かり知ることではない」
「なっ!」

 執事長のあまりの言葉に、他の使用人たちも困惑が広がるが、それでも異を唱える者はいない。指示通りに使用人たちが各々の持ち場に帰る中、グレミオが馬から下りて、ミハエルにひとり食って掛かる。
「オディアル様はテオ様不在時である今、この屋敷の主です! 先ほどの言葉を改めてください! ましてやあの方はまだ大人に守られてしかるべき、たった11歳の御子!」
「認識が違いますよ、グレミオ。あの方はご養子。確かなお血筋でもない、いわば替えのきくお方。けれどたまたまテオ様のお目に留まり、孤児の身から貴族に成り上がった強運の持ち主でもある。元が馬や牛を使い畑を耕していたのだから、動物の扱いも心得ているでしょうし、心配は無用というもの」

 身も蓋もない。しかし返す言葉も見つからず、グレミオは唇を噛む。
「それにさっきも言ったはずですよ。待っているほうが効率的です。クロガネは利口な馬、荷物さえ下せばそのうちに大人しく帰ってくるでしょう」
「荷物…」
 グレミオは愕然とした面持ちで、ミハエルの言葉を繰り返した。

 風が吹く。雨がぽつぽつと傘と叩く。
 グレミオは拳を握りしめた。
 聞くまでもない。この騒動の原因は、執事長にあるに違いなかった。この冷徹な男が、グレミオがたまたま目を離した隙に、言葉の刃で幼い心を容赦なく切りつけたのだ。

  雨がグレミオの髪を濡らす。顔にへばりつく金糸もそのままに、湧き上がる感情を押し殺そうと俯いた。 
 ミハエルはマクドール家に忠義を尽くすあまり、出自の悪いオディアルを日頃から疎んじていた。過去、前マクドール家当主の命令があったものの、オディアルの母であるユリアを屋敷から追い出したのはミハエルだったということも関係しているのだろう。ユリアは、マクドール家の使用人だった。

「グレミオ、お前も仕事に戻りなさい。今夜はテオ様がお戻りになるのです。遊んでいる暇はありませんよ。食事の支度はあなたに任せていたはず」
 ミハエルは眼鏡の位置を指で直しながら、グレミオを見る。

「テオ様のお食事の支度…」
 そう。だからグレミオは、今日はオディアルについていてやることができなかった。
 今朝、今日はグレミオがそばを離れるという話を、オディアルは黙って頷いた。マクドール家当主であるテオを、優先しなければならないグレミオの立場を気遣ったのだ。

 どれだけ不安だっただろう。どれだけ辛かっただろう。
 今日、グレミオの代わりにつけるべき付き人も、多分ミハエルは手配していない。
 けれど心優しいオディアルは、グレミオに何も言わなかった。きっと、グレミオを困らせまいと。
 ましてグレミオには自覚があった。この屋敷でオディアルの味方たる者は自分しかいないと。けれどグレミオは、オディアルの立場を理解していながら、彼の優しさに甘え、目を離してしまった。分かっていたつもりで、グレミオは何も分かっていなかった。

「……できません」
 あんなに不安そうな瞳でグレミオを見上げていたというのに。

「できない?」
 執事長は眉を寄せた。じろりと睨む。

「私はテオ様に、オディアル様の従者を命じられています」
 にこりと笑って見せたのだ。彼は。

「であれば、テオ様がお帰りになるのです。こちらを優先なさい」
 この男が怖くて堪らなかったろうに。

「いいえ、私の主はオディアル様です」
 グレミオは顔を上げた。

「尽くすべき主はオディアル様。守るべきはあのお方のみ!」
「なにを…」
「もう失敗は繰り返さない! 失礼!」
「待ちなさい!」
 グレミオは馬に飛び乗った。
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