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2014-01-17 Fri 17:04
幻水2  同盟軍にて
〈坊 シーナ フリック〉

□□□ 責任 □□□


 夜明け前。
 薄暗く、人気のない廊下を、ひとりの少年がふらふらと壁伝いに歩いている。
 何度も立ち止まっては、深く息を吐く。
「………あたまがいたい………」

 今度はロウだ。
 同盟軍の居心地が悪いのは相変わらずだが、ロウは懲りずに飲み歩いていた。
 夜は大概、出かけている。自室に戻るのは決まって朝方だ。
 ただ、この日は珍しく飲みすぎて、おかげで気分が最悪だった。

「手を貸そうか?」
 若い男の声。もちろん、聞き覚えがある。
 ロウは舌打ちも苛々と、不機嫌に視線を向けた。

「睨むなよ。珍しいな、何をそんなに苛ついてるんだ」
 短い金髪の若い男が息をつく。
 ロウは相手を、更に睨み上げながら、
「シーナ。おれは今、機嫌が最高に悪い。だから消えろ」
「機嫌が悪いから消えろって、そりゃないわ、お前」

 理屈も何もあったもんじゃない。
 猫を被る必要のない相手には、ロウは愛想の欠片もなかった。
 しかし相手は動じない。
「消えるも何も、そんなふっらふらの状態でほっといたら、おれは親父に殺されるよ」
 言いながら、シーナは英雄の肩に手を回した。
 ロウは拒絶するも、体調不良と体格差も手伝い、されるがままに腕をとられ、支えられた。

 ふたりはゆっくりと廊下を進む。
「ロウがいるとやっぱ生活のハリが違うわ。お前がいると、何かと揉め事が尽きないよな。なぁ、ロウはここの軍主をどう思った?」
 シーナは斜め下の少年の横顔を見た。
「いいんじゃないか? あんなものだろう」
 興味津々といった感じのシーナに対し、ロウは無表情だ。
「あんなもの、ね。お前にしちゃ褒めてるほうだろうけど、自分を基準にするなよ? お前と比べりゃ、誰だって『あの程度』になるからな」
「ずいぶんと庇うじゃないか。自分の立場を忘れたのか? シーナ」

 ロウが暗に言ったのは、この若者がトラン大統領の息子としてこの城に滞在していることだ。
 表向きは親善大使だが、都市同盟軍の情勢次第では体の良い人質にもなりえる。
 近年まで戦争していた敵地で、安全の保障はないに等しい。
 そこから両国の関係を取り持ちつつ、自国に利を得る手段を探る重責ある立場にシーナはいた。

 だが彼は飄々と笑う。
「分かってるさ。おれが望んでここに来たんだし?」
その表情は、どこか楽しげだ。ロウは呆れた。
「レパントも正しい人選をしたな」

 なんだかんだ言いながら、部屋の前に着く。
「助かった。ここまででいい」
「………なぁ」
 別れを告げ、扉を閉めようとするロウに、シーナが迷った顔をしつつも声をかけた。
 これ以上なんの話だ、とロウは男をぎらりと見上げたが、そこには真摯な眼差しがあって。
「ロウ。トランに、帰ってこないか?」
 静かな。そして切なる願いが込められた言葉だった。
 ロウはふと視線を下げた。
「無理だ……」
「なぜ? お前が皆を率いたんじゃないか。お前には戦争を起こした責任がある。みんな、ロウの帰りを待ってるんだ」

「今のトランの指導者はお前の親父だ。じゃあな」
 強引に扉を閉めようとするが、ロウの頭上でシーナの腕が邪魔をする。
「待ってくれ。ロウ、分かってるんだろう? 戦争が終わっても、国が落ち着いたわけじゃない。おれたちにはお前が必要なんだ。親父にとって、おれにとって…」
「おれにはもう関係ない。自分達でどうにかしてくれ」
「ロウ!」
 あまりの薄情な言いように、シーナが思わず叫んだ。

 過ぎ去る沈黙。
 俯いているロウが、ゆっくりと口を開いた。
「………おれは、今の自由な生活が気に入っているんだ」
「家も決まった収入も何もない、その日暮らしの生活のどこがいいんだよ。仮にもトランの英雄様だろ? この国の人間が、お前のことをなんて言っているか知ってるか?」

「知ってるさ。トランの悪魔に、親殺しの大罪人。物乞いの英雄様ってのもあったな。道端で茶碗を持って、人様のお恵みを待つのが、おれの正しい生き方だそうだ。ここに来て色々と勉強になっ…」
 シーナはだん! と壁を叩いた。怒気も鋭く少年を見下ろす。
「とりあえず」
 ロウはふと辺りを見回した。
「中に入ってくれ。続きはそれからだ」
 東の空もだいぶ明るくなってきた。こんなところを誰かに見られるのはまずい。

 一晩中、主が帰ってこなかった冷え切った部屋。
 ロウは服を緩めながら、真っ直ぐ寝台に向かい、どすんと腰を下ろした。
 シーナも扉を閉めると、ロウの近くの壁にもたれかかった。
「ロウを連れて帰ることが、おれの仕事の最優先事項だ」
「…レパントめ」
 全く迷惑な人選をしたものだ。シーナとロウは古くからの友人だった。

「同じことを二度言わせるな。おれは帰らない。たまに立ち寄ってもいいが、それだけだ」
「なぜ? 罪悪感なんて今更だろう。人を集めて戦争をして、好き勝手にやらかして、事が終って面倒になれば、あとは全て丸投げして捨てるのか?」
「そうじゃない。いや、そうでもあるが…しつこいぞ、シーナ」
 ロウも半ば逆切れだ。別れ話に縋り付いてくる女じゃあるまいし。

「好きなだけ眠って、腹がすけば川で魚を釣って食べる。金がなくなれば、いるだけ稼いで、小金が尽きればまた稼ぐ。望むままに旅をして、好きなように暮らす。それのどこが悪い」
「じゃあおれの目を見て言えよ。そんな下らないことが望みでおれたちを捨てたのか?」
「黙れ!」
 ロウは立ち上がった。勢い、シーナの服をぐっと掴みかかる。

「シーナ、お前には言ったはずだ!」
 ロウの怒りにシーナは怯むが、ぐっと堪えて睨みつける。
「その右手のせいか? そんなものはただの迷信だ。迷信じゃなくとも、おれたちはそんなもの恐れない!何度も言っただろう!」
「あぁ、何度も聞いた! だから何度も思いとどまった! だからおれは何度も失敗した!」
 シーナをだんと壁に叩きつける。
「だからおれの周りから人はいなくなった!」
 ────ロウの周囲に落ちる、死の影。

 沈黙が落ちた。
 鳥のさえずりが耳に届く。
 薄暗かった部屋には、もう日が差している。
 遠くから朝が早い洗濯夫の声に、見回りをしている兵士達の足音、様々な日常が音を立てる。
 普段であれば、全く気にも留めないだろう生活音が、やけに耳に立った。

「偶然だ」
 シーナの声が震える。
「お前も感じたことがあるだろう? それが全てだ」
 シーナの目の揺らぎに、ロウはその心が折れたことを確信し、やっと手を離した。
 青年は崩れ落ち、ロウはだるそうに寝台に座り直す。
「…偶然だ」
 シーナはまだ言い募るが、己を落ち着かせるために、手で顔を覆う。
 神の力を持つ者の怒りを真正面からぶつけられ、シーナはカタカタと震えた。
 ロウに対する純粋な恐怖と、解放された安堵に胸を押さえる。
 と、その時。

「ロウ、ちょっといいか?」
 ノックの後に知った声が聞こえた。フリックだ。
「構わない。入ってくれ」
「朝早くから悪いな。─っと」
 フリックは扉を開けて、すぐに頭を抱え蹲るシーナが目に入った。
 不穏な空気を察して、何事かと部屋の主に目で問う。しかし問われた方は、
「いい。こっちの話は済んだ。要件は?」
 シーナをちらりとも見ない。

 フリックは躊躇ったが、話を切り出した。
「あー…。何日か前にトランと都市同盟の奴らで、大きな騒ぎがあったろ? それでお前に出張ってもらったわけだが、その件が元でトラン側から不平不満が出ている」
「へえ?」
 ロウは不敵に笑った。
その意味に気づき、フリックは首を振る。
「お前に、という話じゃないぞ。トラン側はけじめをつけたが、都市同盟の兵士は処罰がなかったのさ」
 つまり、国の英雄を軽んじられたと憤っているというわけだ。

「ここに軍規はないのか?」
 私闘を捨て置くなど、ロウにはありえない話だ。
「あるさ。ただ、ゆるいだけだ」
 フリックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「話にならないな」
「ごもっともだ。それについて弁解はできない。だけど話を聞いてくれ」
「聞くも何も、おれが口出ししていい話じゃない。ここの問題だろう」
「そうだが、まだここは全てが手探りなんだ。今も経験から学んでいる。それにゴクウは、お前とは違う。お前は最初から人の上に立つ術を知っていたが、あいつはそうじゃない」
「周りに気圧されて物も言えないようじゃ、それは気が弱いというんだ」
 言って、ロウは寝台に寝ころんだ。深い溜息。

「おれが言えた義理じゃないか」
「頼むよ、リーダー。ゴクウを助けてやってくれ。礼を欠いた今回の事態も、あいつは多分、分かってなかった。何をすべきだったかも。自覚がないんだ」
「…うちの連中の気晴らしぐらいしかできないぞ」
「それでいい」
「昼から偵察を兼ねて、遠出に連れて行く」
 そしてロウはぐるりと背中を向けた。
 その意味するところを察したフリックは、シーナの腕を掴み、立つように促した。
 ふらつくシーナをしっかりと支え、
「頼んだぞ、ロウ」
 ロウが片手を上げたのを見届けて、フリックは部屋を出た。

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