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2013-10-20 Sun 13:32
幻水2  同盟軍にて
〈ルック  2主 坊〉


□□□ 意識の先 □□□



 あれからルックとゴクウは、なんとなく同じ方向を歩いていた。無言で廊下を進む。
 トランの英雄をこの城に招くことの意味。
 そもそもゴクウの考えが甘かったのだ。
 ゴクウとて戦争を経験しているし、まさにその真っ只中にある。
 だが南方生まれのゴクウには、トラン共和国に対して直接の恨みはなかった。
 だから気付かなかった。知らなかったのだ。人の心の難しさを。

 南方生まれのゴクウと、赤月帝国との戦いで痛みを負った彼らとは立場が違う。だからものの見方も違う。
 つまりゴクウとは考え方が違う。

 過去に、絶望を経験したからこその憎悪。
 トランの英雄を殴ったという男と話をした。酒の勢いだけとは言い切れない、深い恨みがあった。
 つまり彼の行動の起因は、英雄を連れてきたゴクウにあった。

 悲しみや憎悪は何も生まない。辛い過去を乗り越えてゆく先にこそ未来がある。
 だからトランの英雄を招いた行動は間違いではないし、これは正論だ。
 しかし正しいからといって、全てが丸く収まるとは限らない。
 過去を乗り越える強さは誰にでもあるわけじゃなかった。

 問題を起した男に対する処罰はどうなるのだろう。
 軍主はゴクウだが、細やかな采配は軍師が行っており、ゴクウは決定権があるだけだ。
 できるならば軽いものであればと願うが、トラン側への体面もある。なにせ相手は国の英雄だ。

 居合わせた者たちの話では、英雄は酒瓶で殴られたあと、最初こそふらつきはしたけれど、慌てて仲裁に寄ってきたビクトールの胸倉を、いきなり掴んで片手で投げ飛ばしたらしい。
 あの細腕のどこにそんな剛力があるのか信じがたい話だが、とにかくその場を物言わぬ恐怖で凍らせてから出て行った、とのことだ。

 場を収めるにしても他にやりようがあるだろうに。
 その話を聞いて、ゴクウはまず英雄の人間性を疑い、ビクトールに深く同情した。

 そして今は強く願う。ビクトールの二の舞だけは避けたい。
 というよりも、むざむざ投げ飛ばされるつもりは微塵もないが、かわして怒りを煽っては元も子もない。
 何せ謝りに行くのだから。なるべく穏便に事が運ぶには、さてどうしたものか。
 つらつらとそんなことを考えて、

「!」
 ふいに頭の隅に届いた、火花のような何かが弾けた感覚。
 一瞬、だが鮮明な何か。その不思議な感覚に、ゴクウは足を止めた。
 なんだろうと首を傾げたところで、同じように立ち止まった美貌の少年が、
「見つけた」
 ルックは壁に視線を向けている。ゴクウも習って壁を見るが、何もない。
 何もないが期待が湧く。この少年が虚空を見るときは必ず何かがある。
 つまり今回は、
「もしかしてマクドールさん?」
「そう。理由は分からないけれど、一瞬だけロウの力が漏れた。───この方角だと中庭だね。彼が動き出さないうちに急ごう」
「良かった! 助かったよ、ルック」

 礼を言いつつ、純粋な驚嘆が胸を占める。あの一瞬でここまで分かるなんて、やはりこの少年は只者じゃない。
「逃げられると面倒だ。───あぁ、けっこう遠いな」
 言うなりルックは、ゴクウの腕を掴んだ。
「なに? え、うわ!」
 わずかな浮遊感を伴って、景色は薄暗い廊下から、急に虫の声が響く中庭に変わった。
 転移魔法。とっさのことでゴクウは少しバランスを崩した。
「おっと! ルック、こういうことは先に…」
 言いかけて、目の端に映った人影に、はっと顔を向ける。

「──マクドールさん」
 中庭の噴水の前で、黒髪の少年がひとり、石の長椅子に座っていた。
 黒い瞳に、整った顔立ち。
 服の上からでも分かる、少年期によくある、背丈のわりに横の成長が追いついていない、やせた体格。
 酒に濡れた髪を後ろになで上げ、多少は大人びて見えるが、少年期から青年期に入りつつあるゴクウよりも確実に年下に見える。が。

「やぁ。いい夜だね」
 右手を押さえていた少年は、急に現れたゴクウたちに驚いた顔をして、けれどすぐに微笑んだ。
 ロウ・マクドール。実年齢23。真の紋章の加護により、少年のまま時を止めたこの男こそがが、トランの英雄だった。

「『いい夜だね』じゃないよ、ロウ。こんなところで何をしていたんだい? 君が真っ直ぐに部屋へ帰らないから、僕まで駆り出されたじゃないか」
 ゴクウが答える前に、ルックが静かな怒りを黒髪の少年にぶつける。
 ロウは苦笑して立ち上がった。
 松明の灯りだけでは分かりづらいが、ロウの顔や首筋に流血の跡は見えない。
 深い怪我を負ったわけではなさそうだ。

「悪かったよ。だからここで、頭を冷やしていたところさ。おあつらえに、雲ひとつない夜空だ。花見ならぬ、星見ってね」
 まさか迷子でしたとは言えない。
「星? 何を気持ちの悪いことを。君が星なんて見る…」
「今夜のことは申し訳ありません! もう二度とこんなことはないと約束します」
 まだ毒舌熱弁し足りないルックを遮り、ゴクウが詫びた。

 だがロウは、ちらりとゴクウを見ただけだ。
 怒るでもなく許すでもなく、無反応に近いそれに、ゴクウはたらりと冷や汗を垂らす。
 ロウは黒衣だから目立たないが、酒で汚れた身なりは、明るい場所だとかなり酷い状態だろう。
 どうも、ビクトールを投げ飛ばした時のような、取り付く島もない状態からは彼の機嫌は向上しているようだが、これはこれで難題だ。ロウの考えていることが読めない。

 ゴクウは彼の顔を見る前までは、とにかく許しを請い、できるならば問題を起した男に対し、ロウ本人からの口添えを頼むつもりでいた。
 頼める義理じゃないのだが、ゴクウには男を庇ってやれる力がない。
 けれど、これも考えが甘かったようだ。反応がなければ、対処のしようもない。

「──構わないさ。幸い、怪我もこぶ程度で済んだしね」
 ロウは己の右手を見ている。
 優しい言葉とは裏腹に、いっそ清々しいほどゴクウへ意識を向けていない。
「でも責任はこちらにあります」
「…………」
 沈黙。ロウは右手を見たままだ。
「すみません、あの…」
「…………」

「ロウ」
見かねたルックが声をかけて、やっと、
「……僕はビクトールと呑んでいた。あんなことがなければ、朝まで酒場を出られなかっただろう」
「──つまりちょうどいい切っ掛けだった、と。確かにビクトールさん相手じゃ朝まで離してくれませんよね。だけど…」
「いいさ、分って来ている」
 ゴクウの言わんとしていることを、瑣末なことだと捉えているのか、話を遮る声に感情は見えない。

「謝罪もいいが、先に風呂を頼めるかい? さすがにこれではね。─── あぁ、そうだ」
「はい! はい、なんでしょう?」
「どうしてもというなら、このあと、僕の部屋で晩酌の相手をしてくれるかい? トラン共和国とジョウストン都市同盟の友好を願って。今夜は無礼講といこうじゃないか」
「無礼講…。いいんですか?」
 ロウは暗に、今夜の接待次第では、この一件は問わないと示したのだ。

「もちろん。無粋なことは言いっこなしだ」
「ありがとうございます!」
 ゴクウはほっと胸を撫で下ろした。持っていた灯りで、手ぶらのロウの足元を照らしながら、
「では先に風呂へご案内したあとで、酒とつまみを持ってお伺いします」
「掘り出し物を頼むよ。ルック、よければ君も──」
「遠慮するよ」

 ルックは呆れた。
 多少、魔法を使うことができる者ならいざ知らず、「魔法使いはその魔力の桁が常人とは段違いだ。
 その危険性から、魔法使いたるもの酒は厳禁であるし、少しでも魔法を習ったことがある者なら誰もが知っている常識だが、ロウには関係ないらしい。
「相変わらずお堅いな」
「君が緩すぎるんだよ」
「少しぐらい、いいだろうに───っくしゅん!」
 ロウが小さなくしゃみを漏らす。ゴクウは羽織っていたマントをロウに掛けた。

「そろそろ行きましょう。風邪を引くといけない」
「そうだね。───ルック、飲まなくてもいいから来ないか?」
「やめておくよ。悪い予感しかしない。君もほどほどにね」
「肝に銘じるよ。おやすみ」
「今日はありがとう。おやすみ、ルック」
 ひらひらと手を振る魔法使いをあとに、ふたりは部屋へ戻った。


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