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2014-03-03 Mon 13:09
幻水2  同盟軍にて
〈坊 テッド 2主〉
2014.3.3


□□□ 背負うもの □□□



「一緒に戦ってください」
 ひたすらに明日を求める少年の眼差し。
 全ての始まりはこの一言だった。

「お前は馬鹿か」
 部屋の扉を開けて一番、『親友』の罵倒が飛んできた。
 数年前に出て行ったときと何一つ変わらないロウの部屋の居間で、テッドはソファーに深々ともたれかかり、呆れた眼差しを向けている。

 テッドの不機嫌の原因。それは本日、屋敷に招いた客人の求めに応じた、ロウの答えにあった。
 ───戦争に加担する。
 ロウは、衆目ある場での都市同盟軍の若き旗印の頼みを、無下に断ることができなかったわけなのだが、そんな事情をテッドが慮ることはない。

 腕を組んで首を傾げる。テッドが説教をするときに、必ずやる癖だ。
 夕闇に煌々と灯りを灯した部屋での、在りし日と同じ光景。
だが時の流れと、偽ることをやめた彼の纏う雰囲気のせいか、久しぶりの我が家のはずなのに、どこか落ち着かない。
 一足先に風呂を浴びてきたロウは、
「なんのことだか分からない」
 とりあえず、とぼけた。なるべく避けたい話題だった。

 ロウは頭を拭きつつ、
「それよりも風呂! テッドも入ってこいよ」
「必要ない。お前と一緒にするな」
 テッドは人ではない。しかしロウは侮蔑を込めて、
「汚いんだよ」
「…くそっ」
 テッドが折れた。
 マナーは、人外になりきれない彼の弱点のひとつだ。
 話題が切れたことにロウは内心で安堵し、だがそれが伝わってしまったらしいテッドは部屋を出るときに、一睨み。
「あとで見てろよ」
「─ごゆっくり」
 それが都市同盟軍軍主のゴクウを、マクドール家に招いた夜のことだった。

 そして客人が寝静まっただろう深夜。
 屋敷を見回っていた使用人が、言い争う声を漏れ聞き、帰還した主の部屋の前で足を止めた。
 扉の下から僅かに明りが漏れている。

「未練たらしく、ずるずるとトラン領に居続けたおれが、気に入らなかったんじゃないのか? テッド念願の出国のはずだ!」
「より関わりが深くなったら本末転倒だ」
 ロウは声を荒げるが、テッドは冷静だ。

 ふたりが言い争っている場所は、ロウの寝室。
 小さな暖炉と寝台、そしてチェストだけの狭い部屋だ。
 廊下に繋がる、居間へ続く扉は僅かに開けていた。
 寝室にひとつだけある燭台と、暖炉の炎が静かに室内を照らす。
 テッドは暖炉の前で床に直接座り込み、ロウは寝台に腰かけている。

 ロウは、払いかかる前髪をかき上げた。
「長居はしない。皆と生きられないなら、せめて国の行く末を見守りたい。それすら許されないのか!?」
「駄目だ。そもそも長居はしないって、どの程度を言ってるんだ? 半年か? 一年? 一度結んだ縁(えにし)はそう簡単に切れるもんじゃない。己の立場を弁えろ」
 テッドは薪を暖炉に放り込む。
「弁えた上での選択だ。大統領の椅子に座ったわけじゃない」

「 ─ 駄目だ」
「どうして? テッドだって長くグレッグミンスターに留まったはずだ!」
「ロウは若い。おれとは違う」
 ゆっくりと。けれどはっきりとした答え。
「どうして…!」
 ダン! 
 ロウは右手でしたたか壁を殴った。
 ゆらりと闇が立ち上る。元より黒いロウの瞳が、より闇に染まり光を飲み込む。

 クレオは迷っていた。
 扉を挟んではっきりとは聞き取れないが、主が激高していることは分かる。
 主は真の紋章を宿しているために、常に感情の起伏を一定に保つことを努めているはずだ。
 怒りに冷静を欠いているのならば、宥めに行ったほうがよいのでは。

 そのうちに懐かしくも恐ろしい、背筋を走る悪寒。
 扉の向こうにあるだろう、死。
 恐怖に身が竦み、瞬きすら止まる。本能が立ち去れと叫ぶ。
 しかし扉の向こうで待つのは、忠誠を誓い、生死を共にした主。
 常世の苦しみからの解放。
 安らかなる永遠の眠り。
 それは、なんと魅惑的な誘い(いざない)か。

 テッドはすぐにロウの傍に寄り、その右手を取った。
 ロウの怒りに呼応して、紋章の力が奔流している。
 燭台の炎が消えかかり、紋章の力の圧で暖炉の炎が目に見えて竦(すく)む。

 テッドは、己の魔力で力の流れを正そうとしたが、ロウはそれを乱暴に払う。
「これぐらい、自分でどうとでもできる! 半人前扱いはしないでくれ!」
 言葉通りに、今にも溢れ出すかと思った闇そのものは、ロウの右手に懐いたままだ。だが。
「目に見えるほどの具現化は、制御できてることにはならない」
 テッドは床に膝を折ると、黒い霧に包まれたロウの右手を、そっと両手で包み込んだ。
 寄り添うように魔力を合わせ、はたを織るように理(ことわり)の流れを正す。

 ロウに呼応した紋章の熱が、テッドの魔力を織り込まれ、僅かに下がる。
 年の功とも言うべきその熟練した技は、魔法を学んで数年のロウには到底できないもので。
 押し黙るロウをちらりと上目で見たテッドは、
「だから行くなと言ってるんだ」
 ため息をついた。

 ロウは反論しようとし、また闇が揺らいで言葉を飲む。
 テッドに言い負かされたわけではないが、今は努めて心を静めることに専念した。
 小さくなった蝋燭の炎が、芯を残したまま、とうとう消えた。

 静かに時が流れる。
 暖炉の中は熾火(おきび)になり、部屋の気温がゆっくりと下がっていく。
 お互いに意識を向けるのは、ロウの右手。
 ロウは心の内で、己に根付く紋章の核と向き合い、テッドは溢れ出た闇を宥め、力を梳いた。

 ゆっくりと。静かに。
 窓を閉めた部屋は、カーテンすら動かない。
 しばらくどちらとも無言が続く。そして。

「───ソウルイーターは27の真の紋章のひとつだ」
 テッドの言葉。流れ来る、静かな魔力。
「───その力はこの世界の生と死の理を司っている」
 穏やかで、あたたかい。
「安らかに最期を迎えた魂も、恨み辛みを抱えて死んだ魂も、全てロウの右手に集まる。分かるか? ロウは─」

「「この世界にある全ての魂の受け皿」なんだ」
 ロウの声が重なった。
 テッドは顔を上げた。その視線の先は不肖の後継者。
 ロウはじっと右手を見つめ、言葉を紡ぐ。

「『魂とは、記憶であり心。善悪全ての魂が集まる受け皿たるべく、求められるのはそれを上回る意志の強さ。その使命は、流れくる感情に飲まれず、染まらず、世界を見守り、魂を導くこと』」
 そしてテッドを見つめる。
 試すようなテッドの見上げる視線を、怯むことなく受け止める。

「『魂の輪廻を止めてはならない。理(ことわり)を歪めてはならない。ソウルイーターを宿す者は、常に全てに等しくあらねばならない』」
 いつしか、右手から生まれた闇は消えた。
 夜の静寂が部屋に満ちる。

「………テッドほどじゃないが、制御はできてる。この三年は誰も死なせてない」
 ロウは無感動に呟いた。
 立ち上がると居間へ向かう。廊下へ繋がる側の扉越しに、
「クレオ、大丈夫だ。下がってくれ」
「──おやすみなさいませ。ロウ様」
 静かな応答ののち、気配は遠ざかった。

 足音に振り向くと、居間に移ってきたテッドが椅子を引いて窓辺に。外へ視線を向けながら、
「実績があるから、大丈夫だって言いたいのか」
 ロウはソファーに移った。
「……経験と、年の差を踏まえてくれ」
 ゆっくりと。
「……これぐらいなら、テッドの助けがなくとも、おれ一人で対処はできた」
 意識して、穏やかに。

「──ロウが、年の割に出来がいいのは認める。だけど今回はすぐそばにクレオがいた。ロウは本当に、紋章だけに集中して制御できたか?」
 優しく、諭す。けれどお互いに、顔は背けたままだ。

 星明りだけの薄暗い部屋。
 テッドは星を眺め、ロウはクレオが去った扉に視線を向けている。
「……出来たさ。じゃなきゃ、クレオを失うことになった」
「──誰かを思っての行動は、全てに等しいとは言わない」
 紋章を鎮めるだけでは、足りないのだと。

「ならば心を持つなと? ……テッド、無茶を言わないでくれ」
 ロウはため息をつく。
「それじゃおれに、石になれと言ってるようなものだ」
 心がなければ、物と同じだ。
「──そうは言ってない」
「……意味は同じだよ」
 そして話が途切れた。よ

 ふたりの視線は交わらない。
 けれど互いに、どんな顔をしているのか想像はついていた。
 つまり、平行線だ。

 珍しく風のない夜。
 初冬。
 虫の声もない。

「……分かってくれとは言わない。だけどおれにも責任がある」
 ロウは呟いた。右手を見る。
「……おれはテッドとは違う。魔力が高いわけでも、術に長けてるわけでもない。経験も足りない。だけど出来ることはある。……やらなきゃならないこともある」

「ロウを否定したわけじゃない。言ったろ? 出来がいいって。それにロウを助けるのは、おれの役割だ。おれたちはふたりで一つだ」
 生と死の理(ことわり)を、紋章の内と外の両方で紡ぐ。
「だったら──」
「それでも駄目だ。『トランの英雄』は捨てなきゃならない」
「捨てろ? この肩書きを? この名を?」
 ロウは振り向いた。

「他の何を騙って(かたって)も、名前だけは偽らなかったテッドが、おれにはそれを捨てろというのか?」
 テッドは300年もの間、紋章の守り人の末裔として、紋章を守るために生きた。
「名を捨てろと。自分の誇りを捨てろと。他でもないお前が」
 テッドはその名に、己の一族の使命と誇りを抱いて死んだ。

 けれど誇りを抱くのはロウも同じだ。
 ロウ・マクドールの名の下に戦争を起こし、どれほどの人間が命を落としたか。
 これまでどれほどの辛苦があったか。
 犯した罪は数知れない。託された願いも、償いも、全てをこの名に刻んできた。
 全てがこの名と共にある。

「おれは、これまでのおれを否定したりしない。全てをテッドの言いなりにはならない。──おれは、おれだ」
 折れるつもりはないと。
 宣言したロウに、それまで星を眺めていたテッドは振り向いた。

「そうだな、ロウはロウだ」
 テッドの表情は変わらない。だが。
「『トランの英雄』だ。ソウルイーターの守り手にふさわしい人間じゃない」
 痛烈な皮肉。
「──選んだのはテッドだ」
 ロウは声色も低く、応戦する。

 肩からわずかに闇が立ち上がり、揺らぐ。
 ロウの瞳は光を宿したままだが、場の空気は先ほどよりも重い。
 その体からにじみ出た闇が、水に落としたインクのようにゆらりと周囲にたゆたう。
 星明りだけの部屋に、ゆっくりと闇の糸が広がる。
 しかしテッドは椅子に座ったままだ。闇が間近まで伸びてきても、テッドは動かない。どころか。

「おれが選んだんじゃない。──世界だ」
 淡々と言い捨てると、闇がその身を掴む前に、テッドはさらりと霧散した。
 向かう先を失った闇は惑い、揺れる。
 残されたロウは、ぱん!と己の右拳を手のひらで受け、怒りを堪えるようにぐっと爪を立てた。

 あくる朝。
「この絵は?」
 ゴクウは尋ねた。
 朝食を終え、旅路の支度が整うのを待つ間、ゴクウはロウの私室にいた。
 マクドール邸へ共に招かれた他数名は、ナナミ含め別室にて待機している。
 トランの英雄に学ぶことも多かろうと、ゴクウの周囲が気を利かせた結果だ。
 ゴクウは素直にそれに甘え、ロウも快く胸を貸した。

 お互いに様々な意見を交わし、ひと段落ついたとき、ゴクウは部屋に招かれてからずっと気になっていた質問を投げた。
 ゴクウの視線の先は、花に囲まれ、満開の笑顔を浮かべる少年の肖像画。元将軍貴族の大邸宅には、まるで似つかわしくない絵だ。

 ゴクウが知る限り、肖像画とは着飾った貴婦人、もしくは立場ある貴族伯爵がモデルであり、この絵のような平民の少年がモデルとして描かれているものは見たことがなかった。
 向かい合わせで椅子に座る英雄は、にこりと笑った。

「僕の『親友』の肖像画さ。うちの馬番…チャーリーというのだけれど、絵を描くのが趣味でね。彼にもらったんだ。遺影ってとこだね」
「遺影、ですか…」
 ロウは事も無げに話すが、話を振ったゴクウのほうは居た堪れない。
「…笑顔がよく似合う方だったんですね」
「そうだね。チャーリーには、彼がこういうふうに見えていたんだろうね」
 何かを含んだ言いよう。

「マクドールさんには違ったんですか?」
「うん。僕には彼がこんなふうに『ただの子供』に見えたことは一度も無かったよ。──彼、いくつに見える?」
 愛想笑い。親しかった故人を偲ぶには程遠い、表面上だけの笑顔だ。考えは読めないが、ゴクウは素直に話に乗ることにする。
「僕と変わらないくらいか、年下に見えます」
「ハズレ。彼は300歳を超えてるんだ」
「え?」
 ゴクウはもう一度、肖像画を見た。

「……人ではなかったんですか?」
「あぁ。──彼は、死神だ」
 低い呟きに振り返ると、一瞬だけ素顔が映る。─怒り。
「あの…」
「──そろそろ行こうか」
 穏やかな笑顔。そしてロウは立ち上がった。


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