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2013-10-20 Sun 14:38
幻水2  同盟軍にて
〈2主 シュウ 坊〉


□□□ 劣等感 □□□



 次の日の明朝。
「き、きもちがわるい…」
 ゴクウは二日酔いだった。あれからばったりと、夜這い帰りのシーナと出会い、あとはもうなし崩しにただの飲み会になってしまったのだ。

 場所を近くの空き部屋に変更し、風呂へ行くためにいったんそこを出たロウが、ヒックスを捕まえて帰ってきた。
 するとシーナがもっと人数を増やそうと言い出して、キニスンとルックを無理やり引っ張ってきた。
 キニスンについてきた犬のシロは可哀想に、他のメンバーから愛ある手荒い歓迎を受けた。

 気弱なヒックスをシーナがからかい、不機嫌なルックがそれに毒を吐き、行き過ぎたところでロウが宥める。
 と見せかけて、ヒックスの恋人の話を持ち出して、同じようにからかった。
 キニスンとゴクウはそれを笑ってみていた。

 青くなったり赤くなったりと忙しいヒックスを中心に、面白おかしく会話が弾む。
 無理やり飲まされたルックが自分の師の陰口を言い出したのを皮切りに、ゴクウも鬼軍師の愚痴をこぼす。
 ロウはそれを我がことのように同情し、そしてヒックスが打ち明けたノロケのような悩み話は一蹴した。

 飄々とシーナがそれに追い討ちをかけ、辛口キニスンが止めを刺す。
 さすがに憐れに思ったゴクウが、今度は宥め役に回った。
 ルックはシロを相手に、ひとり語っていた。
 酔いが回ったキニスンが繰り返す犬自慢に辟易しながら、酒が切れたところでお開き。
 ぞろぞろと皆が部屋へ戻るとき、窓から見えた朝日がまぶしかった。

 こんなに騒いだのはキャロにいた頃以来だ。
 それまであまり交流のなかった『トラン組』とこれほど親しく話すのも初めてだった。

 実はゴクウも、北の人間の例外に漏れず、あまりトランにはよい印象を抱いていなかった。
 もちろん、ゴクウは過去のしがらみや噂だけで人を判断する人間ではない。
 その相手を知った上で、苦手意識を抱いていたのだ。

 なにしろトランの人間はアクが強い。
 出会った人間の皆が皆、一癖も二癖もある個性の持ち主なのだ。
 知り合った人間が偏りすぎているからだとは思うが、シーナもロウも、とにかく食えない人間だった。
 特にロウは食えないどころか、得たいが知れない。

 溢れる教養と落ち着いた物腰。そうかと思えば酒に賭博は当たり前。
 華はあるのに、個性は埋没している。
 切れ者かと警戒すれば、周りが呆れるようなことを派手にやらかし、優しげなようでいて、ふと垣間見せる本性は苛烈で容赦がない。
 当然のように弱者を切り捨てる彼を、はっきり言ってゴクウは嫌いだった。

 さて、ナナミが起こしに来るまでには自室に戻ろうとゴクウは努力するが、足は真っ直ぐ進まない。
「は、はやく部屋にもどらないと…」
「手をお貸ししましょうか?」
 耳通りのよい低音。思わず肩が震えた。
 恐る恐る振り返り、声の主を仰ぐ。予想通り、シュウ軍師が冷ややかな笑みを浮かべていた。

「これには訳が…」
 ふらつく頭で、どうにか言い訳をひねり出そうとする。けれど。
「マクドールに会ったあと、そこの部屋に集まってレパントの息子やらと朝まで騒いでいたのだろう?」
 その通りだ。どうやらメンバーまで耳に入っているらしい。

 ゴクウは明後日の方向に視線をずらした。
 シュウはこれ以上ない呆れ顔で、ため息をついた。
「酒を飲むなとは言わないが、軍主である自覚が足りないな。少しはマクドールを見習ったらどうだ?」
「見習う? 彼を?」
 言われて浮んだのは、シーナと二人でヒックスを窓から吊るそうとしていたロウの笑顔。
 あの中にいる誰よりも性質が悪かったように思う。しかし。

「マクドールは、大体を聞き役に回っていただろう。自分が要らぬことを喋らないように、不測の事態に対応できるように、酒もそれほど飲まなかったはずだ。あの気弱な若者をだしに、お前とキニスンは見られていたのさ」
「───は?」
「なんだ、気付いていなかったのか? あのレパントの息子まで一緒だったのに」
 ゴクウは絶句した。一気に酔いが冷めた面持ちで、軍師の顔を見返す。

 ───やられた!
 むろん、たいした事を喋った覚えはない。ただ酒を酌み交わしただけだ。けれどそういう問題ではないのだ。
 相手の思惑に気付かなかった。
 遅れを取ったということがゴクウの自尊心をいたく傷つけた。
 ヒックスをだしにして、真実、試され、観察されていたのはゴクウだった。
 俯いてしまった主の様子に、シュウが声をかけようとしたとき。

「ゴクウ」
 凛と響く少年の声。シュウは眉をしかめたが、振り返ってにこやかに笑顔を浮かべた。
「おはようございます、マクドール殿」
「おはよう、シュウ軍師。君の主殿の足が、だいぶふらついていたようだから、気になって追いかけて来てしまったよ。── ゴクウ、大丈夫かい?」
 多分に言葉通りの親切心。だが今は間が悪すぎた。
 ゴクウは悔しさに振り返ることもできず震えている。

「せっかくのお言葉ですが、主の招いたお客人にそのようなことはさせられません。お気遣いなく。マクドール殿はゆっくりと部屋でお休みになられるといい」
「ありがとう、そうするよ。軍師殿がいるのなら大丈夫だろうからね」
 軽く答えて、ロウはゴクウに視線を向けた。

「僕は睡眠時間が少ないほうで、夜もあまり眠らないんだ。だからといって、毎日を激務に追われている君を、最後まで付き合わせるつもりはなかったのだけれど…。すまないことをしたね。軍師殿も、彼をあまり責めないでやってほしい。無理やりつき合わせてしまった僕が悪いのだから、今日の業務の支障は、見過ごしてやってくれないかな」
 いつまでも顔を上げないゴクウに、ロウは心配を濃くしたようだ。
 手を貸さないまでも、これからゴクウに説教をするだろう軍師に対し、温情を願う。
 ゴクウには、これが追い討ちになった。

「いえ! 大丈夫。僕は大丈夫です!」
「ゴクウ?」
 いきなりの大声に、ロウは眼を丸くした。ゴクウは軍師の支えを離す。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ですが僕は誰に頼らずとも、ひとりで大丈夫です」
「だけど…そう。なら、いいんだ。じゃあ僕は眠ることにするよ。おやすみ」
「よい夢を」
 明らかに大丈夫ではない顔色だったが、強がって見せるゴクウに、ロウはそれ以上なにも言わなかった。

 シュウは、軽い足取りで立ち去る後姿に、苦い気持ちで頭を下げた。
 ロウが角を曲がり完全に見えなくなってから、よたよたと先を歩く主に手を差し伸べる。
「ゴクウ、待て」
「嫌だ」
 怒りのこもる低い声。軍師はため息をついた。

「そう怒るな。別にたいしたことじゃない。おれは広い視野を持てと言っただけで…」
「そうだ、たいしたことじゃない。彼はシーナとヒックスを使って、僕を測って値踏みしただけだ」
「そういう言い方は正しくないぞ。お互いに腹を割って、酒を酌み交わしながら、親睦を深めただけだろう。現にマクドールは、ゴクウに好意を抱いたようじゃないか」
 そうでもなければ、心配して追いかけては来ない。

「違う、お互いじゃない! 僕は対等じゃなかった! マクドールを見習えだって!? たしかに僕は、彼と比べれば無能だ! 馬鹿正直に騙されることだって度々ある。マクドールのような大将軍の息子でもなければ、魔法も剣も、比べ物にならない!」
 軍師は自分の失言に気付いた。そして内心、ロウに対して舌打ちする。
 年若い軍主は、普段は温厚なのだが、内に秘める気性が激しい。
 能力が高い上に、自分に厳しく、努力も怠らない完璧主義者であるがゆえに、自尊心が高いのだ。
 そのために過去は同じ立場にあったトランの英雄と己を比べ、劣等感を抱いていた。

 決してマクドールが悪いわけではない。
 今回のこともシュウに言わせれば、『それぐらいのこと』なのだが、やはり相性というものもある。
 こうなれば、彼の機嫌を直せるのは、彼の義姉ひとりだけだ。

「そんなつもりで言ったわけじゃない」
 ふらつくゴクウに手を貸そうとするが、払われる。
「それでは満足に階段も上れないだろう。転んで怪我をすればナナミも悲しむ。とりあえず部屋に着くまでは、おれに支えさせてくれないか? そのあとはゆっくり休むといい」
「手本であるべき僕がこの様じゃ、皆に合わせる顔がないから、朝の報告会には出るなって?」
 この捻くれよう。扱いづらいことこの上ない。

 軍師はすぐに言い繕う。
「ここのところ、ずっと忙しい日々が続いているんだ。それに昨日の騒ぎもある。これでまた無理をすれば、倒れてしまうぞ。一晩中、客の酒に付き合って機嫌をとったのだから、軍主として十分な仕事はしているさ」
 ゴクウは、軍師を一瞥しだだけだった。しかしシュウには、主の怒気が薄らいだのが分かった。
「ゴクウ。何度も言うが、ここの軍主はお前だ。おれが仕える主はゴクウ以外にはない。おれはゴクウに夢を見ている。可能性に胸が躍った。それは胸に刻んでおいてくれ。お前は、よくやってくれているよ」

 ゴクウは軍師の顔をわずかに見返し、ふいと顔を背けた。
 あからさまな持ち上げだが、卑屈な反論が出ないようなので成功したようだ。
 そもそも未熟な己に対する怒りを、軍師に八つ当たりしていただけなのだから、長く続けるほどゴクウのプライドは低くない。
 そしてシュウも主に自覚があることを、気づいている。
 若さゆえの未熟さなどは百も承知、その上でゴクウの才覚と器に惚れ込んでいるのだから。

 シュウは、才能があり、何でもそつなくこなすゴクウが心配だった。
 同盟軍にいる同じ年頃の者で、ゴクウ相手では何一つ敵う者はいなかった。
 いや、魔法に関してだけならひとりだけ例外がいるが、それは規格外だ。

 だが今はマクドールと出会ったことで、身近な目標を得た。
 足掻き苦しむのは辛いだろうが、それは前進だ。
 だからシュウはどんな些細なことだろうと彼を信じて、尽し、支える。
 自分にどこまでも厳しい彼を相手に、甘えや弱音を零させただけ、シュウにとっても前に進んだ。

「肩を貸そう。部屋まで送る」
 返事こそしなかったが、ゴクウは素直に腕を回した。

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