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2013-10-20 Sun 16:48
幻水2  同盟軍にて
〈坊 テッド〉


□□□ トラウマ □□□



 やわらかな草の匂い。手綱を引き、馬を止める。
 それでも風は、軽く髪をなびかせる程度には吹いていた。
 なだらかな丘や畑が続くはるか先に、小さく帝都の城が見える。
 美しい国。この国を守るために、あの人は戦っている。この国を守るために。

「なあ」
 ふいに横から声をかけられた。
「この景色を見て、どう思う?」
 問われて、先ほど思ったことを素直に答える。すると問いかけた少年は、笑った。
「うん、きれいだよな。おれもこういう景色は好きだよ。こういうの見るたびに嬉しくなる。切なくて、愛しい」

 ──愛しい?
「妙な顔するなよ。お前だって、この都が大切だって思うだろ? それと同じ。じゃあさ、そう思う理由は考えたことある?」
 ……ない。
「おれはあるよ。で、出した答えは、そこに自分の幸せがあるからだとおれは思う」

 ──自分の幸せ?
「人はな、普通、自分の大事な人の笑顔を見るだけで幸せになれるんだ。お手軽だろ? 大抵がそうなんだぜ? 恋人や家族、友人や仲間…大切な人達の笑顔が大事で、その人達が幸せに住む場所を守りたいって思うんだ」

 守りたい…。大切な人。───愛しい人。
「お前の親父の戦う理由でもあるんだぞ。テオ様が国を守る根源にあるのは、息子のお前だ。テオ様の強さの理由もお前。ロウは戦場のテオ様を見たことないだろうけど、馬鹿みたいに強いぞ。ロウはずいぶん愛されてるな」
 ……何も言えなかった。

 皇帝に忠誠を誓っているあの男は、命令ならば息子さえも手にかけるだろう。そもそも親子という感覚すらない。
 けれど彼の言葉が胸に沁みた。心を占める。
 彼の言葉をどうして信じたのか未だに分からないが、それが馴染めなかった貴族暮らしを、前向きに取り組むきっかけになったように思う。

「なに? おれの大切な人?」
 ある日、どうしてもそれが知りたくて彼に尋ねた。
 路商をしている彼は、売り物の小物を並べる手を止めた。
「あぁ、この前の話のことか。おれの大切な人ってのは、ここだ」
 言いながら右手で胸を叩いた。
 当時、彼は孤児だと偽っていた。

「ま、お前じゃないことは確かだな。さ、商売の邪魔だからさっさと帰れ、お坊ちゃん」
 冗談ではないだろう乾いた眼差しに、酷く傷ついたのを覚えている。
 付き合いは長いのに、近づきすぎると突き放される。
 踏み越えようとすると、切り込まれ、痛い目に合わされた。
 けれど一番ほしい温もりをくれるのも彼で、どんな辛いことがあっても思い出して慰められるのは、彼の言葉であり優しさだった。
 紋章の器としか見られていなかったと分かった今でも、それは変わらない。

 いきなり目の前が明るくなった。
 水晶の谷。四方八方に七色の光が走る。
 夢のように美しい場所。
 ふと話し声が聞こえて、振り返る。遠くのほうで彼と、そして自分がいた。
 青ざめて、けれど彼に右手を差し出すもう一人の自分。

 ───彼が笑った。
 とたん、胸の中をどうしようもない恐怖が埋め尽くした。
 水晶に囲まれた光りあふれる美しい谷。
 どんなに美しくとも、これから起こることに対する恐怖は拭えない。
 もう一人の自分は、ぴくりとも動かない。───動けない。
 光りの中、彼はまるで歌い出すように、口を開く。

「さあ、ソウルイーターよ」
 嫌だ。やめてくれ。誰か彼を止めてくれ。
「かつての主として命じる」
 やめてくれ。駄目だ! お願いだ、誰か彼を!
「今度は、おれの…」
「うあぁぁぁ───!」

 ───自分の悲鳴で目が覚めた。
 心臓の音とともに、ぱらぱらと雨音が聞こえた。
 真夜中らしく、見上げる部屋の天井は、闇に染まっている。
 目眩がするほどに光が乱反射していた、空の狭いあの谷ではない。

「…ゆめ?」
 呟くが、本当に目覚めているのか自信がない。
 水晶の谷の情景は、まだ生々しく脳裏に焼きついている。
 激しく胸を打つ鼓動を治めようと深呼吸するが、それもままならない。
 久しぶりの悪夢。──忘れられない過去。
 ロウは起き上がった。読みかけていた本が、胸の上から滑り落ちる。

 ──いつの間に眠ったんだろう。
 夕方から降り続く雨のおかげで気が滅入り、ずっと自室に閉じこもっていた。けれど眠るつもりはなかった。
 夜の闇は、決まって悪い夢を呼ぶ。
 ロウは震える身体をきつく抱きしめた。

「テッド…。テッド、出てきてくれ」
 消え入りそうな声で呟く。けれど返事はない。
 この城に来て一ヶ月が経過したが、彼は一度も出てきてはくれなかった。
「お願いだから…」
 窓を叩く雨音が、なお胸を刺す。
 肌寒い空気。
 暗闇。
 雨。
 風。
 こらえきれずに涙がこぼれた。

「…ひとりにしないでくれ……」
 けれど紋章の中に閉じこもるテッドは、何の反応も示さなかった。


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